オーストラリア人の約7人に1人が抗うつ剤を服用しています。抗うつ薬を始める決断をするのは、危機的状況に陥ったときであることが多く、抗うつ薬が一時的に効いて、その後投薬をやめるかもしれないと考えています。ほとんどの人は、抗うつ薬を一生飲み続けようとは考えていません。
臨床ガイドラインでは、中等度から重度のうつ病が1回発症した場合、抗うつ薬による治療は6~12ヵ月にとどめるよう推奨しています。
しかし、抗うつ薬を服用している人の約半数は12ヵ月以上使用しています。抗うつ薬をやめようとすると不快な離脱症状を経験することがあり、それが抗うつ薬の再開や継続につながってしまいます。
最近のLancetの系統的レビューによると、抗うつ薬を中止する際に離脱症状を経験する人は約6~7人に1人でした。これは過小評価である可能性が高いですが、これは研究に含まれたほとんどの人が抗うつ薬を数ヵ月しか服用していなかったためです。
研究者らは何を発見したのか?
79の研究、21,000人を対象としたLancet誌のレビューによると、抗うつ薬使用者の15%が、服用を中止した後に離脱症状を経験しました。一般的な症状としては、めまい、頭痛、吐き気、不眠、いらいらなどがありました。
離脱症状は、抗うつ薬を長期間服用している人によく見られます。しかし、Lancet誌の研究では、抗うつ薬を短期間しか服用していない人が主な対象でした。
そのため、抗うつ薬の服用を中止した人の6人に1人が離脱症状を経験するという知見は過小評価である可能性が高く、この数字は抗うつ薬を服用していた人のごく一部にしか当てはまりません。
Lancetのレビューでは、約3%の人が自殺念慮を含む重度の離脱症状を経験しています。離脱症状を経験しやすく、より重度の離脱症状を経験する可能性の高い長期使用者が含まれていないため、これも過小評価である可能性が高いでしょう。
実際に症状を引き起こしている原因を突き止める
不安や抑うつ症状を治療または予防をしていると信じて抗うつ薬の長期服用を続けている人がいますが、症状の多くは似ているので、離脱症状を治療または予防しているだけかもしれません。
しかし、抗うつ薬の長期使用(12ヵ月以上)は無害ではないということを覚えておく必要があります。抗うつ薬を12ヵ月以上服用すると、以下のような症状を引き起こす可能性があります。
- 感情の麻痺
- 男女ともに性欲減退やオーガズム達成困難などの性的機能障害が長期間続くことがある。
- 体重増加
- 無気力や疲労
- 高齢者の転倒リスクの増加
離脱症状に対する認識が低いため、医師も患者も離脱症状を不安やうつ病の「再発」と誤解し、薬物療法が継続的に必要であると考えるようになっているのです。
離脱症状の一部は不安やうつ病の症状でもあるため、この混乱は理解しやすいでしょう。
離脱症状には、神経過敏、イライラ、不眠、疲労、焦燥感などもあります。
不安の症状には、「神経質になったり、不安になったり、いらいらしたりする」、「イライラしやすくなる」などがあります。
抑うつの症状には、「寝つきが悪い、眠れない」、「疲れやすい、元気が出ない」、「そわそわする、落ち着きがない」などがあります。
しかし、離脱症状と再発を区別することは可能です。離脱症状を経験した人は、不安やイライラに加えて、以下のような症状を経験することがあります。
- めまい、立ちくらみ、ふらつき
- 電気が走るような感覚
- アンバランス
- 光や音に対する過敏性の増加
- 耳鳴り(電気が走るような感覚と合わせて「シャンビリ感」などといわれる)
- 吐き気、下痢、胃のむかつき
- 筋肉の痙攣またはけいれん
- 鮮明な夢や悪夢
- 震え
- 錯乱
- 発汗
人々は抗うつ薬をどのように中止していたか?
最近まで、抗うつ薬を安全に中止し、離脱症状を最小限に抑える方法に関する情報は限られていました。
以前のアドバイスでは、用量を半分にして、さらに半分にしてから中止すること方法が取られていました。または抗うつ薬を隔日で服用したり、または別の抗うつ薬に切り替える方法などが試されていました。
しかし、これらの方法は意図的ではあるものの、離脱症状を引き起こす可能性が高いです。
離脱症状は、抗うつ薬の服用を中止または減量してから数時間、数日、時には数週間以内に始まる傾向があり、数週間以上続くこともあります。
では、どうすれば安全に中止できる?
離脱症状を最小限に抑えるために、抗うつ薬の用量をゆっくりと漸減し、脳に安定した変化をもたらすことは、脳画像技術によって支持されています。
「双曲線的漸減」では、薬の用量を徐々に減らしていきます。
例えば、50mg、25mg、15mg、10mg、6mg、4mg、2mg、1mg、そして0mg (中止) という漸減スケジュールでは、脳に安定した変化が生じます。
薬の用量をゆっくりと双曲線的に減らすことで、離脱症状を最小限に抑えることができ、脳が抗うつ薬なしの状態に適応して安全に中止する時間を与えることができます。
最新の臨床ガイドラインでは、抗うつ薬を双曲線的にゆっくりと漸減するこのアプローチが推奨されています。
クイーンズランド大学では、抗うつ薬を安全に中止するために開発された抗うつ薬特有の双曲線的漸減スケジュールの有効性を検証するために、一般診療における無作為化比較試験を実施しています。
漸減に必要な少量の抗うつ薬は、オーストラリアでは簡単に入手できません。しかし、調剤薬局で少量の抗うつ薬を入手することはできます(一部の抗うつ薬では、医師と相談の上、錠剤を砕いて水に混ぜるか、液剤を希釈します)。
もう少し詳しく、抗うつ薬の減薬、断薬についてお知りになりたい方は、以下のリンクをご参照下さい。執筆者のKatharine Wallis教授が推奨するページです。ブラウザの翻訳機能などをお使いの上、読まれて下さい。
「Stopping antidepressants(抗うつ薬をやめる)」
英国王立精神医学院 (The Royal College of Psychiatrists)
News Source
Many people get withdrawal symptoms when they try to stop antidepressants. So how can you safely stop? By Katharine Wallis『THE CONVERSATION』
本記事は『THE CONVERSATION』(2024年6月14日掲載 / 文=Katharine Wallis)からご提供を頂き、翻訳の上、お届けしています。