【抗精神病薬の離脱症状と副作用】認識されなていない断薬、減薬のこと

メンタルヘルス

抗精神病薬の副作用

「それは離脱ではなく、病気の再発です」

これは、抗精神病薬をやめようとする人の多くが、薬をやめるための支援を求める際に言われる言葉です。

抗精神病薬は、精神病(現実との接触を失っている状態)の治療に用いられる薬物です。

ドーパミンと呼ばれる脳内化学物質の濃度が高いことが、妄想などの精神病の症状を引き起こすと考えられています。抗精神病薬は、ドーパミンの作用を阻害することで、これらの症状を軽減するのに役立ちます。

ほとんどの国で、抗精神病薬は統合失調症双極性障害と診断された人々の治療のために認可されています。また、抗精神病薬にはいくつかの適応外使用もあります。

適応外使用とは、薬剤が許可証に記載されている方法とは異なる方法で使用されることです。

抗精神病薬の適応外使用には、不安症、うつ病、不眠症、摂食障害、心的外傷後ストレス障害などがあります。また、高齢者の認知症に関連した苦痛を軽減するためにも使用されています。

抗精神病薬は、精神病を発症する危険性があると考えられる囚人や10代の若者にも処方されることがあります。抗精神病薬を服用している人は、他にも1種類以上の精神科治療薬を服用している可能性があります。

英国では、抗精神病薬の処方数は精神病の診断数よりも早く増加しています。

2015年から2020年にかけて、処方される抗精神病薬の項目は18%増加しています。処方の約50%は、精神病や双極性障害の診断を受けていない人への処方です。

抗精神病薬の副作用は重篤な場合があります。

震え、筋肉のこわばり、落ち着きのなさ、筋肉のけいれんは、古い第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)によく見られる副作用で、現在でも広く処方されています。

その他、便秘、おねしょ、性機能障害、体重増加などが、すべての世代の抗精神病薬に見られる副作用です。

また、心臓障害、肝臓障害、発作、神経遮断性悪性症候群(抗精神病薬に対するまれにしか起こらないが、生命を脅かす可能性のある反応)などの健康に関わる副作用もあります。

日常生活への副作用の影響が、服薬の中止を決断する理由となることも少なくありません。

抗精神病薬を処方された人の約4分の3が、18ヵ月以内に薬をやめていると推定されますが、その主な理由は副作用の重さによるものです。

ワンポイント

向精神薬(psychotropic drugs):中枢神経系に作用し、生物の精神機能に何らかの影響を与える薬物の総称。抗うつ薬、抗精神病薬(主に統合失調症の治療に使われる)、抗不安薬、睡眠薬などがある。

抗精神病薬(antipsychotic drugs):向精神薬の1種。主に統合失調症の治療に使用される。定型抗精神病薬と、非定型抗精神病薬の2種類があり、非定型抗精神病薬には双極性障害や、うつ病に適応する薬もある。

断薬の仕方に関するガイダンスがない

抗精神病薬の服用を安全に中止するためのガイダンスが不足しています。

英国の国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)の抗精神病薬処方に関するガイダンスでは、服用の開始方法について詳細な手順が示されています。

しかし、服用を中止する方法についてのガイダンスはありません。認可された症状で処方された場合、人々はいつまでも薬を飲み続けることを促されます。

抗精神病薬の中止に関するガイダンスがないため、処方者は抗精神病薬の中止について話し合うことに消極的になっています。

英国における抗精神病薬処方ガイダンスでは、患者に力を与えることが重要なコンセプトとなっていますが、人々が薬の潜在的な危険性について十分に知らされていることはほとんどないのです。

処方者は、抗精神病薬の服用を開始するときも、抗精神病薬の影響を考えている人が他の選択肢を探したいと思うときでも、抗精神病薬の服用中止について説明することに消極的です。

そのため、多くの人は、ゆっくりと薬を減らしていくことを助言してくれる医療専門家のサポートを受けずに、自分で抗精神病薬の服用を止めようとするしかないのです。

抗精神病薬の離脱症状は、しばしば無視されたり、薬が処方された状態に戻る「再発」として扱われます。

しかし、他の中枢神経系薬剤と同様の古典的な離脱症状が、抗精神病薬を中止しようとした人の72%から報告され、50%以上がこれらの症状を重いと表現しています。

抗精神病薬の離脱反応には、吐き気、不安、頭痛、震え、攻撃性、睡眠障害、集中力低下などがあります。

抗精神病薬の離脱症状は、適応外使用や精神病のために抗精神病薬を服用していた人にかかわらず、影響を及ぼします。

抗精神病薬の服用期間が長ければ長いほど、服用を中止するのが難しくなるようです。抗精神病薬の服用期間が長ければ長いほど、離脱症状はより重く多様になります。

抗精神病薬をやめることが前向きな経験となり、自分らしさを取り戻したように感じる人もいます。

また、抗精神病薬をやめたことで、逃れたいと思っていた副作用よりも深刻な、日常生活への影響を及ぼす離脱症状を経験することになった人もいます。

誰にとっても、その人にとって何が大切なのかに耳を傾けてくれる処方医がいることは、非常に重要なことなのです。

ワンポイント

日本でも抗精神病薬の過剰処方が問題視されており、様々な対策が行われている。非定型精神病薬の診療報酬加算が、3種類以上の処方で10点加算が削除され、2種類以下で15点加算のみに改定された他、2013年にはSCAP法という減薬ガイドラインが公開されている。個々の医療機関では断薬、減薬の一環として、漢方薬との併用や、自然治癒力を高めるための治療法が実践されているケースもある。

News Source

Antipsychotic withdrawal – an unrecognised and misdiagnosed problem by Laura Lindsey(ニューキャッスル大学薬学部講師)『THE CONVERSATION』

本記事は『THE CONVERSATION』(1月9日掲載 / 文=Laura Lindsey)からのご提供を頂き、翻訳の上、お届けしています。

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