心と体を調える女性のためのスピリチュアルメディア『AGLA』で、とくに人気の高かったコラムを再掲する「AGLAアーカイブス」。2019年6月7日公開記事『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第八回)』よりお届けします。
「恋の蛍」。
これは、蛍の光を恋焦がれる思いにたとえた言葉だそうです。
今年も蛍の季節がやってきましたね。九州など南の方では、ほたる祭りも開催されています。
新暦の6月11日~15日頃は「腐草為蛍(くされたるくさはほたるとなる)」の時季。
蛍は「朽草(くちくさ)」という異名を持ちますが、土の中でさなぎになり、羽化して、枯草の下から出てくる蛍の姿を見て、昔の人は枯れて朽ちた草が蛍になったと思ったのでしょう。
ほのかな光を明滅させながら水辺を飛び交う蛍は美しくて、切なくて。どこか、この世のものとは思えぬ神秘の力を感じますね。
今回は「蛍」にまつわる恋の和歌にはじまり、蛍の一生、蛍の美しい名所もご紹介しましょう。
蛍にまつわる恋の和歌
「もの思へば沢のほたるのわが身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞ見る」
和泉式部『後拾遺和歌集』
恋に焦がれる苦しい思いを蛍に託し、京都の貴船神社で和歌を詠んだ和泉式部。
さ迷うかのように、闇を飛び交う蛍の光を、恋に焦がれる余り、身体から抜け出した我が魂かと眺める。
そんな、苦しくも切ない女心が詠まれています。
蛍火
私が執筆しました『福を呼ぶ 四季みくじ』には、「蛍火」というカードがあります。
蛍火は、蛍の光を表すとともに、恋の火、わずかな残り火、亡き人の魂のたとえ。
このカードのメッセージは、「思いを言葉にすることから、すべては始まる」。
「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」という諺もありますが、蛍火は、言葉を持たぬ蛍たちにとって愛の言葉。わずか数日の命を燃やし、愛を伝えるために命の限り懸命に輝き続ける。蛍の一生は恋のため、愛のためにあります。
ちらりと見かけただけの「僅か(はつか)に見る恋」、思いを伝えることが許されない「忍ぶる恋」、まだ見ぬ人に恋焦がれる「見ぬ人を恋ふる」。
蛍を見て、そんな恋心を和歌に託した人々。平安歌人の感性の美しさに感動しますね。
源氏蛍と平家蛍とは?
蛍と言えば「源氏蛍」と「平家蛍」が有名。
源氏蛍は日本でいちばん大きな蛍。清流を飛び交うのは源氏蛍です。
一方、平家蛍は池や沼などに生息する蛍。「里の蛍」と呼ばれることも。
その名の由来は諸説ありますが、源氏蛍という名前は平清盛亡き後、平家打倒の夢に破れ宇治平等院で無念の死を遂げた源頼政が亡霊となり、蛍となって戦ったという逸話からくるというもの。また、源氏物語の主人公である光源氏にちなんで名づけられた、とする説もあるそうです。
また、源平合戦で負けたのが平家だったということから、源氏蛍よりやや小さめの蛍を平家蛍と命名したといわれています。
その光の強さ、飛び方にも違いがあり、源氏蛍の方が平家蛍より光が強く、宙に曲線を描くように飛び、平家蛍は淡い黄緑色の光を放ちながら、まっすぐに飛ぶそうです。
蛍狩りへ出かけよう!
さて、私が暮らす宮城県には、国の天然記念物に指定されている全国的にも有名な源氏蛍の生息地があります。登米市の鱒淵(ますぶち)地区。
毎年6月下旬から7月上旬にかけて、清流・鱒淵川を源氏蛍が舞い、水面に映るホタルの幻想的な光が訪れた人々の目を楽しませてくれます。
東京でも6月15日(土)と16日(日)の二日間、杉並区「久我山」駅周辺で「久我山ホタル祭り」が開催されます。もともと、地元の子どもたちに蛍を見せてあげたいという思いから始まったという祭り。
静岡県から蛍を譲り受け、玉川上水に放流。現在では地元で蛍を飼育、祭りに合わせて放流しているので、自然の蛍が見られるようになったそうです。
まさに、都会の中のオアシスですね。
北海道では7月に入ってから飛び始め、なんと、7月下旬まで蛍の季節が続きます。
皆さんが暮らす街にも、蛍が楽しめるスポットがあるはず。
蛍の光を求めて、夜のドライブに出かけませんか?
神さまからの返歌
貴船神社で恋に焦がれる苦しい思いを蛍に託し、和歌を詠んだ和泉式部。
実は、神さまから返歌がありました。
「おく山にたぎりて落つる滝つ瀬の玉ちるばかり物なおもひそ」
おく山の滝の水が飛び散るほどに思い悩むでないよ。
この和歌を受け取り、和泉式部の思いは叶えられたと伝えられています。
蛍の愛の力をかりて、伝えたい思いがあるのなら言葉にして伝えましょう。
思いを言葉にすることから、すべては始まります。
『四季に寄り添い、祈るように暮らす』
福ふく
参考文献
小学館『日本の歳時記』
山下景子『二十四節気と七十二候の季節手帖』