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幻覚が見える不思議な病「シャルル・ボネ症候群」とは何か?

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幻視や、実際には存在しないものが見えることで、恐怖や苦痛を感じることがあります。

さまざまな身体的および精神的状態によって生じることがある。しかし、あまり知られていない原因として、1760年に初めてこの病気を報告したスイスの科学者の名前にちなんで名付けられたシャルル・ボネ症候群があります。

シャルル・ボネ

シャルル・ボネ症候群 (Charles Bonnet syndrome:幻視とも呼ばれる) は、眼、視神経または脳の疾患による重度の視力障害を有する患者における幻視を指します。

シャルル・ボネ症候群の正確な原因はわかっていません。しかし、最も一般的に受け入れられている理論は、脳への視覚的感覚信号の喪失(例えば、人が目が見えなくなったとき)は、脳が過剰で望ましくない脳活動にブレーキをかけることができないことを意味しています。

これにより、視覚の感覚をつかさどる脳の部分 (視覚野) が不適切に信号を発するようになります。その結果、患者は真の刺激がないのに何かを見ていると感じます。これは幻視です。

これらの症状があなたや、片目または両目を失明した友人や家族に起こっている場合は、それが 「発狂」 の兆候ではないことを理解することが重要です。

シャルル・ボネ:18世紀のジュネーブの博物学者。1740年にアブラムシの単為生殖(雌が単独で子をつくること)を確認した論文をパリの科学アカデミーに提出、1743年には権威あるロンドンの王立協会(最古の学会)の正会員に選ばれる。

シャルル・ボネ症候群の幻覚はどんなもの?

幻覚には、線・形・閃光など、または蝶のような動物の形成されたイメージなどがあります。単純な幻覚の方がはるかによくみられます。

数秒から数分、数時間、または連続的に発生することがあり、頻度は単発のものから1日に何度も発生するものまでさまざまです。シャルル・ボネ症候群が何年も続くのは普通のことであり、一生にわたって症状が続く人もいます。

シャルル・ボネ症候群の幻覚の性質は非常に多様です。つまり、患者は同じものを繰り返し見ないことが多く、シャルル・ボネ症候群の人は次の人とは異なるものを見るようになります。

シャルル・ボネ症候群の幻覚は、感情的な意味がほとんどないか、まったくないことが多く、患者は自分が見ているものが現実ではないことを認識できます。これは精神疾患に伴う幻覚とは異なるところです。

シャルル・ボネ症候群特有の幻視の他の特徴

◉幻視は視力が失われた領域(例えば、左目が見えない人は、その目だけで幻覚を見ることになる)にのみ現れる。

◉幻覚は目を閉じているときよりも開いているときによく見られ、目を閉じたり目をそらしたりすると消えることがある。

◉幻覚は感覚遮断状態(例えば、夜間や薄暗い照明の中、または活動していない時間帯)でよくみられる。

影響を受けるのはどんな人?

シャルル・ボネ症候群は高齢者に多い障害ですが、後天的に視力を喪失した人にも現れる可能性があります

シャルル・ボネ症候群のほとんどは高齢者 (通常は70歳以上)です。これは、この年齢層で視力障害が最も多いためと考えられます。しかし、後天性の視力障害があれば、年齢に関係なく誰でもシャルル・ボネ症候群を発症する可能性があります。

シャルル・ボネ症候群につながる失明の原因は、通常、黄斑変性症、緑内障、糖尿病脳卒中、外傷ですが、失明につながるあらゆる病気がシャルル・ボネ症候群を引き起こす可能性があります。

先天性失明 (生まれつき目が見えない人)では起こりません。

現在のところ、オーストラリア人の何人がシャルル・ボネ症候群にかかっているかについての決定的なデータはありませんが、ある研究では、60歳以上の視覚障害者の17%以上がシャルル・ボネ症候群にかかっていると推定されています。別の研究では、視覚障害を有する被験者の57%が幻視を自覚したと報告しています。

重要なことは、報告が不足しているため、推定よりも一般的である可能性があることです。つまり、患者は精神疾患や 「発狂している」 と思われることへの恐怖から、幻覚を報告しないケースが潜在的にあるのではないかと思われます。

さらに、症状を訴えても精神病や認知症と誤診されることもあります。

治療の選択肢は限られている

幻覚の他の原因を除外するための重要な第一歩は、一般開業医の診察 (しばしば神経科医、または老年科専門医との連携)です。これらには、認知症、身体的神経疾患(例えば脳腫瘍)、てんかん、感染症や薬物によるせん妄などがあります。これらを除外するために、医師は血液検査や脳画像検査を指示することがあります。

シャルル・ボネ症候群の治療法は非常に限られていますが、多くの患者は、特に頻度の低い幻覚や生活の質に悪影響を及ぼさない幻覚に対しては、安心感を与えるだけで十分だと報告しています。

幻覚の頻度と持続時間を最小限に抑える方法としては、まばたきや眼球運動を頻繁にする、明るい場所に行く、電気をつける、社会的交流を増やすなどがあり、これは運動不足の解消にも役立ちます。

衰弱症状のある患者には、抗うつ薬抗精神病薬抗てんかん薬などの薬物療法を試すことがありますが、その効果はさまざまであり、副作用が上回ることもあります。

視力障害の原因を改善できれば(例えば、重度の白内障が原因で失明し、患者が白内障の手術を受けた場合)、幻覚が消えることがあります。

しかし、残念ながら、シャルル・ボネ症候群につながる視力障害の原因は、一般的には治療できません。

「PRASADA」的視点でも、このシャルル・ボネ症候群に触れておきたいと思います。

通説では両目の白内障でほぼ失明状態にあった(シャルル・ボネの)89歳の祖父に、この症状があったことが1760年のシャルル・ボネ症候群の発見につながったとされています。

しかし、シャルル・ボネ本人も研究で使用していた顕微鏡の過度の使用により、左目を酷使。ほぼ見えない状態にあったとされています。

このことから、彼も幻視に悩まされたといいます。飼っていないはずの猫が家の居間に見えたり、机にはあるはずもない一輪の花が見えたのです。

1700年代といえば、魔女狩りの嵐が吹き荒れていた時代。男であろうとも見えるはずもないものが見えたと言い出せば、その対象になってしまう可能性が大いにあったのです。

作家の西風隆介(ならいりゅうすけ)さんは、あの稀代の霊能者、宜保愛子さんとの共通点を指摘します。

宜保さんは幼い頃に焼けた火箸が左目に当たり、失明寸前の火傷を負いました。左目はほとんど見えない状態にあったのです。しかし、これをきっかけに左目で霊が見えるようになります。

また、宜保さんは先天性の難聴も患っており、右耳の聴力が失われていました。

最新の研究では、「聴覚性シャルル・ボネ症候群」と呼ばれる音楽性幻聴があることが分かっています。言うに及ばず、宜保さんは霊の声を聞くことも出来ました。

シャルル・ボネ症候群の大きな特徴の一つが、自分の見ている非現実的な幻視に対して批判力が維持されていて、視力低下が進行するほどに幻視はより顕著になるということ。

こうしたことを鑑みるに、シャルル・ボネ症候群の一部の人々は、実際に霊や他者の脳内にある情報を垣間見ることが出来たのではないかと思われます。

今年に入って「霊能一代」という著作が復刊され、話題となっている故砂澤たまゑさん。

彼女は伏見稲荷の分社である内記稲荷神社の神職を勤めつつ、「伏見稲荷大社公務本庁 三丹支部」の支部長でもあり、稀に見る優秀な「オダイ(「お代」「お台」とも書き伏見稲荷の眷属神の依代となって、神の声を伝える人を指す)」でした。

砂澤さんと並んで有名なオダイに、大阪の安居天神の境内にある玉姫稲荷社を守っておられた、故中井シゲノさんがいらっしゃいます。彼女は、22歳で不慮の事故で失明しています。

中井さんも、霊が見え、神の声を聞くことが出来ました。

かつての日本には村々に神仏とコンタクトの取れる「巫覡(ふげき)」と呼ばれる存在がいて、祈祷を行ったり、神降ろしを行って来ました。その中には、盲目の方が多かったといわれます。

現在、シャルル・ボネ症候群についてはロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校、オックスフォード大学などで研究が行われています。

シャルル・ボネが生きた時代、魔女狩りを避けるために自分が見ていたもの、他者が見ていたものを「幻視」とせざるを得なかったのかもしれません。

シャルル・ボネ症候群で起こる幻視の一部は、実際に亡くなった人を見る霊視や、人の脳内の情報を読み取るESP(超感覚的知覚)能力なのではないか、こうした観点からの研究にも期待したいところです。

PRASADA編集部 久保多渓心

News Source

What is Charles Bonnet syndrome, the eye condition that causes hallucinations? By Jason Yosar『THE CONVERSATION』

本記事は『THE CONVERSATION』(2020年2月5日掲載 / 文=Jason Yosar)からのご提供を頂き、翻訳の上、お届けしています。

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